原因

原因不明(特発性)の場合も多くありますが、副鼻腔炎(ちくのう症)アレルギー性鼻炎鼻茸(鼻ポリープ)、かぜ、インフルエンザ、頭部外傷などが主な原因です。最近では、新型コロナウイルス感染症の初期症状や後遺症の1つとして報告されております。

嗅覚(におい)について

においは鼻の中のすべての場所で完治しているわけではありません。脳に近い鼻の上の部分(嗅粘膜)でのみ感知しています。また、においがわからなくなると、味の感覚も鈍ってしまいます。

 

検査

前鼻鏡検査や内視鏡検査

鼻の中を診察します。鼻の入口から直接観察(前鼻鏡検査)したり、内視鏡検査で診察します。鼻の中のポリープや粘膜の腫れの程度、鼻水の状態や量、鼻の通り具合、嗅粘膜の状態などを観察します。

画像検査

レントゲン検査や場合によってはCT検査やMRI検査を行います。レントゲン検査やCT検査では、副鼻腔炎や鼻の粘膜の腫れ、鼻中隔弯曲症などを調べます。MRI検査では頭部外傷や脳腫瘍などを調べます。(当院ではCT検査やMRI検査は行っておりませんので、、必要な際は検査可能な病院に紹介させていただきます)

アリナミンテスト(静脈性嗅覚検査)

アリナミン液(いわゆるにんにく注射)を注射して、ご自身の息からその成分のにおいを感じ取る検査です。アリナミン液の注入開始からニンニクのようなアリナミン臭が感知されるまでの時間を潜伏時間、においを感じ始めてから消失するまでの時間を持続時間として測定します。嗅覚正常者の測定値は、潜伏時間は平均 8 秒、持続時間は平均 70 秒で、嗅覚が低下すると潜伏時間が平均より長くなり、持続時間が平均より短くなります。また、全く反応が認められない場合は嗅覚脱失(嗅覚の完全消失)と判定します。その結果から、においの回復の見込みを推測します。

基準嗅力検査

T&T オルファクトメーターという嗅覚検査キットで調べます。5種類のにおいを直接嗅いでもらい、どの程度のにおいの強さで検知できるかを調べます。基準嗅力検査は当院では行っておりませんので、検査可能な病院に紹介させていただきます。

 

当院での治療

においの障害の原因となっている病気の治療を行います。

局所処置

鼻かぜやアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎などにより鼻水が多く粘膜が腫れている場合、鼻や副鼻腔の中のたまった鼻水や膿を出すために、副鼻腔洗浄吸引処置をします。また、粘膜の腫れをひかせるために抗菌薬や消炎剤が含まれたお薬の吸入(ネブライザー)を行います。局所処置は非常に大切な治療ですので、可能であれば週に2~3回程度通院すると良いでしょう。また、併せてご自宅で鼻洗浄をされると良いでしょう。

点鼻療法

局所処置で鼻の中がきれいになっている状態で、粘膜の炎症や腫れを抑える効果の多いステロイド薬点鼻薬の注入療法を行います。ステロイド点鼻薬を投与すると、体内での副腎皮質ホルモン分泌が低下することがありますので、定期的にコルチゾールという副腎皮質ホルモン値を血液検査によりモニターしながら治療を進めていきます。

薬物療法

ビタミンB12製剤血流改善剤漢方薬などを内服します。

嗅覚刺激療法

嗅覚刺激が嗅神経障害後の神経再生とその維持に重要であると考えられています。具体的には、「何のにおいか意識しながら」嗅ぐことにより、においの神経(嗅神経)の細胞数が増え、脳内回路のネットワークが強まると考えられています。特に「感冒後嗅覚障害」や「外傷性嗅覚障害」に効果があると考えられています。

*実際の方法

当院では、生活の木が販売している「はじめての嗅覚トレーニングセット」を使用して治療を行うことをお勧めしております。4種類の香り(ラベンダー、ユーカリ、レモン、クローブ)を12週間1日2回10秒ずつ嗅いでいただいております。この治療は保険適応外ですので、トレーニングセットをご自身で購入して、自宅で実施していただいております。

「はじめての嗅覚トレーニングセット」

トレーニングセットの購入が難しい場合、日常生活の中で食べ物や草花などの身の回りのにおいを「何のにおいか意識しながら」嗅ぐだけでも良いでしょう。

例えば、 キッチンで「これはオレンジの香りだな」と思いながら、オレンジの匂いを嗅ぐ

食事の際、「カレーのスパイスの香ばしいにおい」と思いながら、カレーの匂いを嗅ぐ

仕事の合間でも、「コーヒーの風味」と思いながら、コーヒーの匂いを嗅ぐ、などです。

このような日常生活での習慣づけをしていれば、嗅覚低下の予防になるし、一度衰えても、嗅覚が回復することが期待されていますので、一度試してみてください。

経過

アリナミンテストでにおいが感知できれば、改善の見込みがありますので、上記の治療を積極的に行います。治療期間が2~3か月に及ぶこともあるので、すぐに改善しなくても、あきらめずに治療を続けましょう。


 

執筆・監修医師紹介

医師 中下陽介院長/医学博士
楓みみはなのどクリニック 院長 中下 陽介

経歴

    • 関西医科大学 医学部医学科 卒業
    • 広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 卒業
    • 広島大学関連病院勤務
    • 木沢記念病院 耳鼻咽喉科 副部長
    • 岐阜大学医学部付属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 助教(臨床講師)
    • 中濃厚生病院 頭頸部・耳鼻咽喉科 部長
    • 楓みみはなのどクリニック 院長

認定・資格

    • 日本専門医機構認定耳鼻咽喉科専門医
    • 日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医
    • 日本耳鼻咽喉科学会認定騒音性難聴担当医
    • 日本めまい平衡医学会認定めまい相談医
    • 日本医師会認定健康スポーツ医
    • 博士(医学)広島大学
    • 補聴器適合判定医師

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